なつかしい香りがした。
自転車で川沿いを走っていると、ふわっ、と花の香りがした。振り返るけれど、暗くなってきた並木道には新緑の葉っぱしか見当たらない。
何の花だったか。実家の前に並べてあった植木鉢の香り。遅い時間こっそり家に帰ると、通りは気を遣うほど静かで真っ暗で、自転車を家の前にとめるとやけにその香りが鼻についた。おばあちゃんが昔から育てていた。その頃の私は花になんて興味なかったけれど。大人になって、店で働き始めてから覚えた名前。そう、沈丁花(ジンチョウゲ)。
沈丁花には、雄株と雌株がある。二種揃わなければ種ができない。しかし室町時代、中国から日本に伝わったのは雄株だけだった。種ができないのでこの花は日本に来て以来、ひたすら挿し木によって増やされてきた。挿し木は、元の木から切った一枝をそのまま植えつけて育てていく。子供ではなく、親の木がそのまま増えていく。
「挿し木が作るのはクローンである。受け継がれる形質は、もともとの原木と全く同じになり、幾世紀を経ても香りも花も変化しない」
つまり室町時代の香りが、そのまま現代に伝わっている。室町時代の人は、あるいは明治時代を生きた人々は、この香りに何を想ったのか。
でもよく考えたら沈丁花は春のまだ寒い時期に咲く花で、五月も半ばの今頃に、咲くことなんてあるのだろうか。別の日同じ場所を走っても、もう花の香りはしなかった。ただ私の記憶に残った香りだったのか。
そういうわけで、花について書くことにします。
お時間のある方は、お付き合いくださいませ。
沈丁花(ジンチョウゲ) 英名;winter daphne
花期;2~4月原産地;中国
花言葉;栄光、不滅
深い緑の葉っぱの先に、白やピンクの花が密集して芳香を放つ。
香木の「沈香」、美しい花をもつ「丁字」から「沈丁花」と名付けられた。
引用・参考文献 『花百物語』 三浦宏之 双葉社
良子ちゃんの文章好きだなぁ。
返信削除小説を読んでるみたいで
いつの間にか自分が主人公になって
大好きだった祖母を思い出して
鼻の奥がツンとしちゃったわ・・・。
その香りは良子ちゃんの
おばあちゃんからのエールかもね(^^v
また、flowers&wordsな物語
聞かせてね。楽しみにしています。
Mana
Manaちゃん!なんか深読みしてくれてありがとう!!笑
返信削除こっそり始めました。また書くのでときどき読みにきてね~!