2012年9月5日水曜日

『SHERLOCK』とかけて、あるいは華道と解く。


 コナン・ドイルは何と言うだろう。bbc放送局の、この大いなる挑戦に。


 ドラマシリーズ『SHERLOCK』。その原作はもちろん1886年に連載が開始した、コナン・ドイル著『SHERLOCK HOLMES』だ。ただしその舞台を、そっくり現代に置き換えて。



 21世紀のシャーロック・ホームズは、「推理の科学」というウェブサイトを運営し、タクシーに乗ってロンドンの街を駆け回る。100年以上時代が違うのだ。原作の事件やトリックはほとんど使えない。第一話は、「緋色の研究」から「ピンク色の研究」に変わっていた。しかしスマートフォンを見事な手際で操って、必要な情報を巧みに引き出すその男は、不思議と「シャーロック・ホームズ」にしか見えなかった。



 この物語の最大の魅力は他でもない、主人公の、一風変わった名探偵だ。冷静でいて大胆。鋭い観察力と推理力。捲くし立てるようなあのしゃべり方と、人を見下したような偉そうな態度。『SHERLOCK』は他のあらゆる面が原作とは違うけれど、
シャーロック・ホームズという主人公の魅力を、見事に描ききっている。その本質を理解し守っていくのなら、馬車がタクシーに変わろうが、緋色がピンクに変わろうが関係ない。


 これは、古典、伝統と呼ばれるものの、一つの理想の姿ではないだろうか。図書館の奥で、原作のそのままの姿を守っていくことも大切だ。しかしそれだけでは、埃をかぶって新しい本を積み上げられ、少しずつ人々の生活から離れていく。その魅力の本質を見抜いた上で、時代に合わない部分はばっさり変えてしまうことも、時には必要なのではないか。シャーロックは言った。「見るべき場所を見ないから、大切なものをすべて見落とすんだ」。本質を見抜く目と、変化を恐れない少しの勇気。



 そうすることでより多くの人に愛されるのなら、この素晴らしい物語が未来へ受け継がれていくのなら、ドイルもきっと、笑ってくれるだろう。





SHERLOCK / シャーロック [DVD]
角川書店 (2012-07-06)
売り上げランキング: 311

0 件のコメント:

コメントを投稿