2012年6月22日金曜日

ハイドランジア・ファンタジー



遠くからたった一目見て、恋した人に近づくため。彼女は美しかった、人魚の尾ひれと声を捨て、人間の足を手に入れる。 与えられた美しいものすべてを捨て、それでも王子が手に入らなかった少女は、泡になって消えてしまう。

すべてを失い、愛する人も失い、体が溶けて消えていくってどんな感じ? 例えば雨に濡れるあじさい。粒になった水が葉に馴染み、気持ち良さそうにも見えるけど、悲しそうに涙を流しているようにも見える。消えるってこんな感じ?痛みもなく、ただ雨に濡れるように、気づけば自然と泡になる。 

あじさいはもともと日本の花だから、雨にも冬にも強く、そこら中に咲いている。学校にも公園にも、道路わきの花壇にも。土によって色が変わるのは有名な話だけれど、本当に色々な色で、初夏の街を彩っている。青いあじさいは涙を、真っ赤なあじさいには狂気を思う。 

この花を見ていると、昔読んだ絵本を思い出した。タイトルは『人魚姫』。狂気にも似た恋に落ちた、人魚の姫の物語。美しい泡になって消えてしまう、一人の少女の話。 道路の傍で、排気ガスにまみれたあじさいが見せる夢。ハイドランジア・ファンタジー。願うなら、どこででも夢を見ることができる。


花展「ハイドランジア・ファンタジー」今日から4日間、Gallery I さんにて展示中です。


http://galleryi.exblog.jp/18303528/

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